香川県高松市番町4丁目1-10 香川県庁
(2026/09/12 更新)
高松市番町にある香川県庁舎東館は、丹下健三が設計した建物として知られ、現在も使われている庁舎です。1958年に竣工し、戦後の庁舎建築として初めて国の重要文化財に指定されました。香川県では「建築王国」と呼ばれるほど有名建築が多く、そのなかでも東館は、建築そのものを見に訪れる人が少なくない場所になっています。
県政の中心でありながら、1階ロビーやピロティ、南庭などは開庁時間に見学できるため、建物の内側に入って空間のつくりを確かめられるのが特徴です。観光というより、街の中で息づいている現役の建築として向き合える場所だと感じました。
東館の大きな特徴は、モダニズム建築による「開かれた庁舎」という考え方です。庁舎への出入りをしやすくするピロティや、開放感のある南庭、そしてエレベーターなどの共用設備や構造体を建物の中心に集めたコア・システムが、その思想を形にしています。
外周部分を開いたつくりは、1階では広いロビーとして、3階以上では柔軟に区画を変えやすい執務空間として機能してきました。先を見越した設計として、今もそのまま活かされている点が印象的です。
また、丹下健三のモダニズムに、日本の伝統建築を思わせる要素が重ねられているのも見どころです。南庭から眺める小梁や大梁の連続、勾欄付きのベランダは、五重塔などの木造建築を連想させると紹介されています。コンクリートの建物でありながら、どこか柔らかなリズムを持っているように見えます。
1階ロビーは、建築好きでなくても足を止めやすい空間です。水盤や日差しの入り方をゆっくり眺めながら、椅子に腰かけてひと息つけるような落ち着きがあります。庁舎ではありますが、通りすがりの散歩の休憩にも使えるような開放感がありました。
ロビーの壁面には、猪熊弦一郎による巨大な陶板壁画「和敬清寂」があります。赤を基調とした色面が強い存在感を放ち、空間の印象を大きく支えています。4面にわたって配置された文字や太陽、月の意匠も含めて、建築と美術が一体になった場所だと感じられます。
家具にも注目すると、丹下研究室が設計した木製や陶製の椅子、石のテーブルなどが置かれ、剣持勇が手がけた県庁ホールの家具も使われています。建物だけでなく、細部まで含めてひとつの空間として組み立てられていることが伝わってきます。
東館の南庭は、芝生が広がり、石灯籠や太鼓橋が配された、静かな庭です。これまでに造り変えられた経緯があり、2016年の耐震工事の際にも復元が行われました。庁舎の前庭でありながら、公園のように子どもが遊ぶ姿も見られる場所として紹介されています。
その南庭に面したピロティは、高さ約7メートルのゆとりがあり、外部空間でありながらよく整えられています。床には玉石と敷石の2種が使われ、香川県産の石材が選ばれています。天井の木製ルーバーにも県産の松材が用いられており、地元の素材を取り入れようとした姿勢がうかがえます。
ベンチも置かれていて、ここでも少し腰を下ろして過ごせます。庁舎の周辺にありながら、建物と庭が切り離されず、ひとつながりの居場所として扱われているのが印象に残ります。
東館高層棟の1・2階には共有スペースがあり、1階北側はギャラリーとして写真や史料が展示されています。丹下が猪熊に送った手紙など、建物ができるまでのやり取りに触れられるのも興味深いところです。
2階の県庁ホールは、イベント会場としても使われる空間です。扉には香川漆器の後藤塗りが施され、白と青に塗り分けられた引き戸や無双窓など、伝統的な意匠が取り入れられています。モダンな構成の中に、土地の工芸や様式が重ねられているため、眺めるほどに細かな発見があります。
レビューでは、徒歩1分ほどの場所にある「さか枝うどん」に触れられていました。朝うどんと組み合わせて訪れる人もいるようです。建築を見てからうどんを食べる、あるいはその逆でも、番町周辺の街歩きに自然につながります。
香川県庁舎東館は、建築史の文脈で語られることが多い一方で、いまも県民が使う庁舎として日常の中にあります。丹下健三、猪熊弦一郎、剣持勇らが関わった空間を、現在の県庁の姿として歩けるのが、この建物ならではの体験です。