香川県東かがわ市五名 大坂峠
(2026/07/07 更新)
香川県東かがわ市の引田から、徳島県板野町へ抜ける大坂峠は、讃岐街道の一部として知られる峠越えです。入力テキストでは、古道、旧道、新道という三つの時代の道があり、かつては香川と徳島を結ぶ主要なルートだったことが紹介されています。海沿いに国道11号が通るようになる前は、この峠道が往来の軸だったという記録が残っています。
今では観光地らしい整った入口ではなく、道の存在を知っていなければ見過ごしてしまいそうな場所です。それでも、案内板や丁石、神社の社叢など、道の記憶をたどる手がかりが点々と残っていました。
国道11号線沿い、ビジネスホテルオーシャンの建物の近くから山側へ入る細い道があり、その先に大坂峠古道の案内が見つかります。周囲は田畑が広がり、人や車の気配はあまりありません。緑の稲穂が風に揺れるなか、案内を頼りに少しずつ奥へ進んでいく様子が印象的です。
古道は小さな橋を渡り、JRの高架下のトンネルをくぐった先に続いていました。案内板や丁石があり、道としての痕跡は確かに感じられますが、その先は草木が生い茂り、踏み跡が薄くなっていくようでした。記録では、江戸時代までに使われていた道で、ルートが不明瞭な部分もあるとされています。現地でも、その不明瞭さがそのまま残っているように見えます。
古道の周辺から西へ向かうと、大坂峠遍路道の案内が現れます。こちらは四国のみちとして整えられており、古道よりは道幅が広く、歩きやすい印象です。案内板にはJR讃岐相生駅から県境までの距離も示されていました。
ただし、静かな山道というより、夏の季節には虫の多さが印象に残る道でもあったようです。写真を撮ろうとすると蚊が寄ってくる場面もあり、歩くには季節を選ぶ道だと感じられます。それでも、石や苔、水の流れがつくる空気には、峠道らしい落ち着きがありました。
大坂峠の周辺で立ち寄られた地主神社は、木々に包まれるように建つ神社でした。香川県指定自然記念物の社叢は、150〜200年生のウバメガシを主とする樹林だと紹介されています。社殿そのものよりも、境内を囲む森の存在感が強く、神社全体が林の中に守られているような景色です。
本殿は大きくはありませんが、長く地域で祈りが重ねられてきた雰囲気があります。峠を越える前後に、この場所で無事を祈った人も多かったのではないかと感じさせる、静かな佇まいでした。
大坂峠の入口付近には、道標も残っています。文面をたどると、右が大坂越、左が卯辰越という分岐を示していたことがわかります。かつては、鳴門方面を経由する別ルートもあり、どの道を通るかが往来の選択だったのでしょう。
今の交差点を見ていると、昔の分かれ道の記憶がそのまま重なっているようにも思えます。新しい道路のそばに、道標や案内板が残っていることで、ただの交差点が少し違って見えてきます。
峠の記録とあわせて印象的だったのが、国道沿いの「本場さぬき うどんや」です。海の見える席があり、瀬戸内海を眺めながら食事ができるつくりになっています。訪れた日は暑く、冷たいぶっかけうどんとかきあげが選ばれていました。
食後には木製の水車が回っている様子も見られ、昔の水の風景を思わせる場面があったようです。峠道の探索のあとに、海と水車、そしてうどんがつながっているのは、この土地らしい流れにも感じられます。
大坂峠は、単なる山道ではなく、時代ごとに姿を変えてきた交通の記憶でした。古道は不明瞭になり、旧道は遍路道として残り、新道は県道として今も使われています。さらに、その周辺には神社や石碑、道標、うどん店が重なり、道の歴史だけでなく、生活の記憶も一緒に残っています。
入力テキストからは、険しい峠でありながら、行商や遍路、日々の往来、そして人の暮らしを支えてきた道だったことが伝わってきます。引田と板野を結ぶ大坂峠越は、今も静かに、街道の痕跡をたどれる場所として残っているようです。