三重県津市美杉町上多気 伊勢本街道 飼坂峠越
(2026/07/06 更新)
伊勢本街道の飼坂峠は、伊勢神宮を目指す道の途中にある山越えの区間です。今回の記録では、2025年8月に国道368号線の飼坂トンネル西側から登り、峠を越えて東側へ下りました。街道歩きというより、山道をたどる感触の強い区間で、舗装された国道のすぐ脇から、歩く道の表情が切り替わっていくのが印象に残ります。
伊勢本街道は、大和と伊勢を結ぶ街道のひとつで、参宮の道として歩かれてきました。その中でも飼坂峠は難所のひとつとして語られてきた場所で、地形の厳しさが今も歩いた感覚として伝わってきます。
西側からの登りは、国道368号線から標高差130m余りとのことでした。道中には腰切地蔵があり、山道の途中にひとつ目印のような存在として立っています。こうした地蔵や道標の類は、街道歩きの中で現在の地形だけでなく、往来の記憶を感じさせる要素にもなります。
峠までは、車の通る国道から離れていくにつれて、周囲の空気も少しずつ変わっていきます。山の中へ入る感覚がはっきりしており、伊勢本街道が単なる近道ではなく、昔から人が山を越えてきた道であることを想像させます。
峠には東屋があり、休憩できるようになっていました。歩き通したあとに一息つける場所があるのは助かりますが、記録ではアブなど虫が多かったとのことです。山の峠らしい環境で、夏場の歩行ではこうした点にも気を配る必要がありそうです。
東屋は、街道の中継点としての役割を今に残すような存在でもあります。視界が大きく開ける場所というより、山を越える途中で足を止めるための場所として、ひっそりと置かれている印象です。
東側へ下る道は、ゴロゴロした石や砂地が続き、さらに人があまり通らないため丈の長い雑草が多かったそうです。実際に3人とも滑って転んだという記録からも、ここが気軽に歩ける散策路ではないことが分かります。
一方で、石畳道ではなく、緑色の土嚢が敷かれていたり、山を切り通した道が続いていたりと、道の整え方には現在の保全の痕跡も見えます。完全な古道の姿がそのまま残るというより、歩けるように手が入った部分と、自然に戻りつつある部分が混ざっているようでした。
別の記録では、R422の飼坂トンネル西入り口付近の駐車スペースからなら比較的楽に越えられたという感想もありました。峠には休憩所があり、車の通らない道に風情を感じた一方で、東側は草だらけで悪路だったとも書かれています。
このあたりは、伊勢本街道の中でも、道そのものの性格がよく表れている区間といえそうです。静かな山道、切り通しのような地形、休憩のための東屋、そして荒れた下り道。歩く人にとっては景色だけでなく、足元の状態そのものが記憶に残る場所です。
飼坂峠は、伊勢本街道の「難所」として知られる区間のひとつですが、今回の記録からは、難しさだけでなく、山越えの道が今も残っていること自体の重みも伝わってきます。舗装道路の脇から始まり、地蔵を経て、東屋のある峠へ到達し、そこから草深い下りへ入っていく流れは、街道がたどってきた時間をそのまま地形の中に見せているようです。
快適なハイキングコースというより、山道としての緊張感が前に出る場所ですが、伊勢本街道を歩くうえで、街道の厳しさと歴史の連続性を感じる一場面になっています。